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特許権にかかる並行輸入の取り扱いについてQ&A 弁理士業務推進委員会 (掲載日:2004年4月5日)

弁理士業務推進委員会

委員長 三嶋 景治

第1部会担当副委員 伊藤  晃

担当委員 菅野  中

Q1. 特許権にかかる並行輸入はどのような取り扱いになっていますか?

A1. 特許権にかかる並行輸入とは、外国において特許権者又はこれと同視しう る者により適法に流通経路に置かれた真正商品が、当該特許権者又は権利者から許諾を得ていない第3者により輸入されることを言います。税関における特許権にかかる並行輸入の取り扱いは、関税定率法基本通達第23節21-7(2)に記載されています。特許権に係る並行輸入は、従来特許権を侵害するものとして取り扱われていました。裁判所の判断も昭和44年の大阪地裁判決(いわゆるプランズウイック事件判決)では特許権に係る並行輸入は、従来特許権を侵害するものとされていましたが、平成9年7月の最高裁判決(いわゆるBBS事件)以降、税関では特許権に係る並行輸入は、特許権者等と、譲受人との間で特許製品について販売先ないし使用地域から我が国を除外する旨の合意であって、かつ、その旨が製品に明確に表示された場合を除き、知的財産権の侵害にはならないも のとして取り扱われることになりました。

Q2. 製品にどのような表示をすれば使用地域から我が国を除外する旨を明確に表示することになるのですか?

A2. 関税定率法基本通達によれば、上記「その旨が製品に明確に表示された場 合」とは、当該製品の取引時において、製品の本体又は包装に刻印、印刷、シール、下げ札等により通常の注意を払えば容易に了知できる形式で当該製品につい ての販売先ないし使用地域から我が国が除外されている場合で、当該製品の取引時にはその旨が表示(明認方法といいます)されていたことが輸入時において確 認できる場合をいう、と規定されています。この規定に従えば、たとえば、製品の本体又は包装に「all right in japan reserved 」と表示しても我が国が除外されている表示ではないから不可であり、我が国が除外されている表示、例えば「Not for sale in Japan」と表示しなければならないということになりますが、実際のケースがないので断定はできません。弁護士小松陽一郎氏は、(最近の最高裁判決に基 づく実務指針―判決詳解―)の中で、最高裁判決は、製品に明認方法を示せば、並行輸入を阻止できる等としたとし、明認方法は日本語でも良いかどうか(渋谷 教授は日本語説、田村助教授や玉井教授は反対)、抹消されたらどうなるか(渋谷教授は悪意の転得者を除き阻止不可、田村助教授・近藤弁護士は否定的、取引 の安全・信義則)、転得者が悪意の時はどうか(田村助教授は阻止可、新聞広告の効果)、製品のごく一部に特許権のある場合、不公正な取引方法、権利濫用、 どのような表示である必要があるかといった問題点を指摘されています。

Q3. BBS事件の最高裁判決はどのようなものだったのですか?

A3. BBS事件の最高裁判決の要旨は概ね以下のとおりでありました。すなわ ち、「特許権者は、譲受人に対しては、当該製品について販売先ないし使用地域から我が国を除外する旨を譲受人との間で合意した場合を除き、譲受人から特許 製品を譲り受けた第三者及びその後の転得者に対しては、譲受人との間で右の旨を合意した上、特許製品にこれを明確に表示した場合を除いて、当該製品につい て我が国において特許権を行使することは許されないものと解するのが相当である」と云う判断です。 要するに、特許権者から製品を譲受けた者(譲受人)に対しては、日本除外合意が行われた場合を除き、また、特許権者から製品を譲受けた者からさらに製品を 譲り受けた者(転得者)や第三者に対しては、そのような合意を行い、かつ特許製品上にこれを明確に表示した場合を除いて、そのような製品が日本に入ってき た時に日本で特許権の行使をすることは許されないというのです。

Q4. この判決はどのように受け止められていたのですか?

A4. この判決についての評価については、「「BBS]事件最高裁判決の評価 と今後の問題点 日本機械輸出組合平成9年度報告書「通関関連知的財産権をめぐる諸問題」(1988年6月)本間忠良」に以下のように紹介されています。 (1)「このたびの最高裁判決は、特許権者が望めば並行輸入を阻止できる方策を理由中で述べることにより、特許権者を救済し、特許権者が日本の独占市場を 保持する事を可能にしている点で、東京高裁判判決を是正したものと評価することができる」(知的財産協会特許小委員会第2小委員会)。(2)「BBS事件 において、最高裁が特許権の並行輸入を一定の条件で認める判決を下した」(大蔵省関税局業務課知的財産専門官)。(3)「特許権者は「一定の」場合、当該 製品について我が国において特許権をすることができるという判断が読み取れます。」(弁護士小野昌延)。(4)「本判決は、特許権者のために、並行輸入防 止の方法を教えてしまったようなものである」(都立大渋谷教授)。(5)「最高裁判決を批判するのではなく、その判決のもたらす問題点を、企業的立場から 検討していきたい」(松居弁護士)。(6)「ライセンス契約において並行輸入を阻止するために契約上どのような点を考慮すべきかを検討したい」(日本知的 財産協会ライセンス委員会)。こうしてみる限り、最高裁の判決の内容は、概ね好意的に受け止められているようにみえます。

Q5. BBS事件について、特許権者が望めば並行輸入を阻止できると判断したのはどのような理由からですか?

A5. 実は、BBS事件の東京高裁判判決は、最高裁の判断とは逆に二重利得機 会論を採用して並行輸入者勝訴の判断を下していたのです。「二重利得機会論」は、「国際的消尽論」の根拠の1つで、知的財産権の消尽という擬制が、国内と おなじく国際間でも通用するという議論であります。東京高裁は、最初に品物を市場に置いたドイツと日本とで特許権を行使して2回利得する機会を得るのは論 理的におかしい、利得を得る機会は本来1回かぎりでなければならないという理由から並行輸入を認めたのです。利得機会論にもとづく消尽論というのは、 1900年ごろドイツのライヒ裁判所判決ではじめてでてきたものですが、それ以来、利得機会(知的財産権者が利得を得る機会)は1回しかないという議論が 1世紀近くも定説となっていました。ところがBBS事件で最高裁は、特許権が国ごとに別個だという現実のもとでは、二重利得を否定するほうがむしろおかし い、二重に利得してもかまわないのではないかという立場をとり、これによっていわゆる国際的消尽論の重要な柱の1つを切り倒してしまったのです。とはい え、最高裁・高裁いずれもBBS事件の判決の結論そのものが変わったわけではなく、結論的にはアルミ・ホイールの並行輸入者を勝訴させているのですが、最 高裁判決が判決理由のなかで、国際的消尽論をほとんど否定したことは東京高裁の判決との大きな違いであります。ちなみに、BBS事件の第1審の東京地裁判 決では、最高裁判決とは逆に並行輸入を否定し、特許権の侵害となるとして特許権者の差止を認めていました。

Q6. それでは、国際的消尽について説明してください。

A6. 消尽(消耗理論)とは、販売が正当に行われた場合に、販売された特許製 品は、特許権が用い尽くされたもの「Erschoppfung」となり、もはや同一の商品について特許権の効力を主張することができないという説(二重利 得防止説)であります。この説は、ドイツのコーラーによって提唱され、今や国際的に定説になっています。消尽の理論は、要するに、「特許権者が特許権によ り排他的に利用する機会は一実施品について、一回に限られ、特許権者や特許権者との契約でその発明を実施する権利を有する者が特許製品を市場に置くことで その製品自体についての特許権は消尽するというものです。特許権者が、日本国内において、一旦特許製品を市場に置いた後、その特許製品については、特許権 の効力が及ばないとする「国内消尽論」は、ほとんど異議なく承認され、国際的にも認知されています。しかし、国境をまたがって流通した特許製品について も、利得機会は1回しかないという「国際的消尽」は世界的に合意されているわけではありません。BBS事件は、まさに我が国が国際消尽を容認するかどうか が問われた事件であり、BBS事件は、我が国が「国際的消尽」を許すかどうかという難題を裁判所に突きつけられた重要な事件でもあったのですが、最高裁は 二重利得防止説を否定しました。二重利得防止説が問題とされるのは、例えば、外国で価格制限が行われている場合や、外国におけるライセンスによる利得が内 国のそれと同程度に利得の機会が得られたとは言いがたい場合、さらに外国における利得の機会を内国のそれと同視したのでは特許権者の技術開発費の回収が不 可能になる場合などです。このように二重利得の内容の分析がなされないままで、利得の機会に着目する事には疑問があるというのが二重利得防止説を否定する 立場の理由であったのです。

Q7. 先進諸国は特許権の並行輸入をどのように取り扱っていますか?

A7. (1)米国の並行輸入の考え方 米国では、何の制限もなしに特許製品が並行輸入される場合には特許権の国際的消尽を認めますが、特許権者により特許製品に何らの制限が付されている場合に は、特許権は国際的に消尽しないという考え方であるそうです。米国の地裁の判決ではありますが、特許権者が特許製品に何ら制限を付さずに外国においてその 製品を販売し、これが買主の手を経て米国に輸入された場合には、原則としてその製品についての特許権の消尽を認め、特許権者はこれを差し止めることはでき ないという判例があります。米国の基本的な考え方は、「黙視の実施許諾」または「処分制限の移転」を根拠として並行輸入に対する特許権の差止めを否認しま すが、特許権者または売主が、特許製品に販売先や輸入先などについて制限を明示していた場合には、これを理由として特許権者等による差止めを容認するとい う扱いになっています。 (2)EU(ヨーロッパ)の並行輸入の考え方 EUでは、ローマ条約と、国内法との適用の問題があり、EU域内での特許製品の移動と、EU域外からEU域内についての特許製品の移動とに対する対応が異 なっています。EU域内での並行輸入は、ローマ条約によって特許権者はこれを差し止めることはできないとされていますが、EU域外からEU域内への特許製 品の並行輸入は国内法によって処理されることになり、殆どの国は並行輸入を容認しないという立場にたっているようです。EUでは、ローマ条約という法的根 拠の存在の他に、ヨーロッパ共同特許条約(EC)によって、国内消尽と同一視できる条件がそろっており、EC領域内では、EC条約30条によって、並行輸 入禁止は天下の大罪になっています。

Q8. BBS事件の最高裁の判断に何か問題がありますか?

A8. (1)最高裁の判断は、BBS社が特許製品の譲渡の際に輸出先につき何 ら明示していなかったときには、特許製品の並行輸入を容認するが、明確な表示を付した特許製品については、並行輸入を認めないという判断であって、米国の ように「特許権者または売主が、特許製品に販売先や輸入先などについて制限を明示していた場合には、これを理由として特許権者等による差止めを容認する」 という立場をこの判決ではっきりと宣明したわけではありません。この判決について、本間忠良氏は、前記報告書の中で以下のようにコメントされています。す なわち、判決では「…合意した場合を除いて、…許されない」と裏命題((参考(10)参照)で書いているのに、反対解釈論者はこれを「…合意した場合、… 許される…」と、その正命題を必ず真だと考え、裏命題から正命題を反対解釈しているのである、と指摘し、最高裁は「最初の販売時に地域除外合意をおこな い、かつ製品上に明確に表示した場合について、なにも言っていない。」だから、最高裁判決が、一定の場合には、特許製品の並行輸入を禁じることができるこ とにはならない。 (2)同氏の説明はきわめて、明快、論理的で説得力があります。したがって、その論旨に誤解が無いように以下同氏の主張をそのまま引用させていただきま す。すなわち、同氏は『(判決には、)「特許権者が、右譲渡の際に、譲受人との間で特許製品の販売先ないし使用地域から我が国を除外する旨を合意し、製品 上に明確に表示した場合には」とある。ここは正命題で書かれている。そこで喜んで読み進むと、それに続いて「転得者もまた、製品の流通過程において他人が 介在しているとしても、当該製品につきその旨の制限が付されていることを認識し得るものであって、右制限の存在を前提として当該製品を購入するかどうかを 自由な意思により決定することができる。」とはぐらかされる。これは最高裁が1ページちかくを費やして構築した巨大なトリックである。「最初の販売時に地 域除外合意をおこない、かつ製品上に明確に表示した場合を除いて権利行使はできない」ことはハッキリと書いてある。しかし、「最初に地域除外合意をおこな い、かつ製品上に明確に表示した場合には権利行使ができるのか」という問題には答えていない。「自由な意思により決定することができる」と書いてあるだけ である。では結論はどうなのか。最初の販売時に地域除外合意をし、かつ製品上に明確に表示をした場合は白紙である。今回の判決を反対解釈論者のように解釈 すると、最初の合意で地域除外合意をおこない、製品上にステッカーでも貼れば、転がっていった先々で権利行使ができると思いこんでしまう。ところがよくよ く読んでみるとそうではない。白紙なのである。最初の販売時に地域除外合意をおこない、かつ製品上に明確に表示した場合について、最高裁はなにも言ってい ない。今後そのような問題が起きた時に新しく裁判をやるということなのだ。最高裁のお墨付きがあると思いこんで、手放しで喜んで世界市場の分割をやると、 やはりジャップオート(BBS事件の並行輸入業者)のようなところから訴えられひっくりかえる可能性がある。』と指摘されています。

Q9. BBS事件について、最高裁判所が裏命題で判決を記載しなければならなかった理由があるのですか?

A9. (1)BBSの最高裁の判決では、「特許権者が、譲渡の際に、譲受人と の間で特許製品の販売先ないし使用地域から我が国を除外する旨を合意し、製品上に明確に表示した場合には」とまでは表命題で記載しながらその結論部分は 「転得者もまた、製品の流通過程において他人が介在しているとしても、当該製品につきその旨の制限が付されていることを認識し得るものであって、右制限の 存在を前提として当該製品を購入するかどうかを自由な意思により決定することができる」とで記載されているのであって、「少なくとも特許権者は、・・・権 利を行使できる」という表現は用いられたわけではありません。その理由の一つに国際情勢を気にしなければならなかった事情があったのではないでしょうか?  国際情勢を考慮して「輸入を含めた商品の流通の自由は最大限尊重することが要請されていると言うべきである」というのが今回の最高裁判決の前提になって います。 (2)GATT加盟国間では輸入品を止めることができないのが原則(11条数量制限の禁止)であり、20条dに該当する例外的な場合だけ輸入を禁止できる ことになっています。また、TRIPS協定6条の基礎となったジュネーブテキストでは、並行輸入問題は各国それぞれ自由である、「如何なる義務も負わさ ず、自由も制限しない」となっていたようですが、TRIPS協定6条では、並行輸入の問題については、内国民待遇と、最恵国待遇を除いて、TRIPS協定 の如何なる規定も適用してはならない事になりました。この結果、TRIPS協定6条は、「輸入権」の援用をゆるさないことで並行輸入を制限したい輸入国グ ループを押さえ込んでいます。また、ジュネーブテキストでは、ECの提案で「権利消尽に関しては、欧州共同体は単一の締結国とみなされる」という「脚注」 が入っていたそうですが、TRIPS協定6条ではこれがすっかり落ちてしまったというのです。この「脚注」があるかないかで、EC諸国の責任の重みがぐっ と違ってきます。今後、ECが輸入品に対してこの並行輸入の利益を与えないとすると「内国民待遇違反」になり、域内の国別に見たときに、例えばフランス が、域内の国(ドイツ)からの並行輸入を認め、域外の国(アメリカ)からの並行輸入を認めないのは「最恵国待遇違反」になります。これが並行輸入の取り扱 いに関する先進国の状況ですから、日本でも先進国と同じ扱いにするには並行輸入を認めなければなりません。 (3)このような事情からBBS事件の最高裁の判決では「輸入を含めた商品の流通の自由は最大限尊重することが要請されている」ことを前提に組立てられて います。さらに、本間氏によれは、前記報告書中で『TRIPS協定6条はジュネーブテキストよりも「自由貿易寄り」になり、「知的財産寄り」ではなくなっ た事に気が付いた米国がTRIPS理事会で「6条」を削ろうと提案したが、国際法協会の国際法経済法委員会が反対したこと、「6条」を削ると現実政治が働 いて強い国である米国が好き勝手をやる恐れがある。つまり、米国主導のもとでは、並行輸入禁止、そして知的財産権による世界の市場分割というレジュ‐ムが 出来上がってしまうおそれがあり、それに対する歯止めとして、6条はおいておくべきだとしている』と指摘されています。 (4)もしそうだとすると、最高裁は、特許製品の並行輸入の取り扱いに関して「特許権者または売主が、特許製品に販売先や輸入先などについて制限を明示し ていた場合には、これを理由として特許権者等による差止めを容認するという」アメリカ寄りの判断を示すことができない状況に追い込まれたのではないでしょ うか? このような国際情勢の事情を考慮して最高裁は、特許権者が並行輸入者に対して、「並行輸入」を阻止する権利を有するかどうかの判断を示さず、ま た、「最初に地域除外合意をおこない、かつ製品上に明確に表示した場合には権利行使ができるのか」という問題には答えず、「自由な意思により決定すること ができる」という含みを残すような判決を下さざるを得なかったのかもしれません。最初の販売時に地域除外合意をし、かつ製品上に明確に表示をした場合は白 紙であり、今後そのような問題が起きた時に新しく裁判をやるということかもしれない、ということにでもなれば事は重大です。輸入差し止めは、輸入業者に とって死活問題であります。税関においても慎重な対応が望まれます。 以上

参考文献

(1) 知的財産権侵害物品の水際取締制度の解説 財団法人 日本関税協会 知的財産情報センター 平成10年8月 (2)「BBS事件最高裁判決の評価と今後の問題点」 日本機械輸出組合平成9年度報告書「通関関連知的財産権をめぐる諸問題」(1988年6月)本間忠良 (3)TRIPS協定がめざす21世紀世界像「日本国際経済法学会年報」(1996年10月)本間忠良 (4)TRIP協定の特異性――レントの創出と分配のシステム「関税と貿易―WTOの解剖2(日本関税協会1997年2月)本間忠良 (5)特許製品の並行輸入 吉江 恵子 (6)立命館法学1995年6月(243・244号)特許製品の並行輸入―国際的消耗論批判― 大瀬戸 豪志 7)「BBS事件(特許)特許権侵害差止等請求事件」小樽商科大学商学部企業法学科(当時3年次生)佐藤 豊 (8)最近の最高裁判例に基づく実務指針―判例詳解―平成10年1月13日 弁護士 小松陽一郎 (10)平成15年度会員研修テキスト「税関による知的財産権侵害物品の水際取締りー関税定率法の改正と実務上の手続きの流れー」財務省関税局業務課 知的財産専門官 山田清

<参考>

(1)正命題と、裏命題との関係について、 本間忠良氏の説明によれば、 (正命題)p → q        (逆命題)q → p (裏命題)not p → not q  (対偶命題)not q → not p  たとえば「pならばqである」という正命題が真だとする。「女学生ならば女である」は真である。しかしその逆命題「qならばp」「女ならば女学生であ る」は必ずしも真ではない。女学生ではない女はいくらでもいる。裏命題「pでなければqではない」「女学生でなければ女ではない」も必ずしも真ではない。 最後に対偶命題「qでなければpでない」「女でなければ女学生でない」は真である。したがって、正命題に対してつねに真である命題は対偶命題しかない。逆 命題も裏命題も必ずしも真ではない。 (2)TRIPS協定第6条(消尽=並行輸入) この協定に係る紛争解決においては、第3条(内国民待遇)及び第4条(最恵国待遇)の規定を除くほか、この協定のいかなる規定も、知的財産権の消尽に関する問題を取り扱うために用いてはならない。 (3)ジュネーブ・テキスト第6条  上記第3条及び第4条の規定を除き、この協定のいかなる規定も、締約国に対し、一旦権利者によりまたその同意を得て市場に置かれた物の使用、販売、輸入又 はその他の頒布に対して与えられる知的財産権の消尽に関する各国それぞれの制度の決定について、いかなる義務も負わせず、また、自由も制限しない。 (4)TRIPS協定第3条 内国民待遇 1 各加盟国は、知的所有権の保護に関し、自国民に与える待遇よりも不利でない待遇を他の加盟国の国民に与える。・・・(以下略) (5)TRIPS協定第4条(最恵国待遇)  知的所有権の保護に関し、加盟国が他の国の国民に与える利益、特典、特権又は免除は、他のすべての加盟国の国民に対し即時かつ無条件に与えられる。加盟国が与える次の利益、特典、特権又は免除は、そのような義務から除外される。 (a) 一般的な性格を有し、かつ、知的所有権の保護に特に限定されない司法共助又は法の執行に関する国際協定に基づくもの。 (b) 内国民待遇ではなく他の国において与えられる待遇に基づいて待遇を与えることことを認める千九百七十一年のベルヌ条約又はローマ条約の規定に従って与えるもの。 (c) この協定に規定していない実演家、レコード製作者及び放送機関の権利に関するもの。 (d) 世界貿易機関協定の効力発生前に効力を生じた知的所有権の保護に関する国際協定に基づくもの。ただし、当該国際協定が、貿易関連知的所有権理事会に通報されること及び他の加盟国の国民に対し恣意的又は不当な差別とならないことを条件とする。 (6)TRIPS協定第28条 与えられる権利(註:輸入権などというが、第6条の規定により、並行輸入の阻止には適用できない。) 1 特許は、特許権者に次の排他的権利を与える。  (a) 特許の対象が物である場合には、特許権者の承諾を得ていない第三者による当該物の生産、使用、販売の申出若しくは販売又はこれらの目的とする輸 入を防止する権利 (注 輸入を防止する権利は、物品の使用、販売、輸入その他の頒布に関してこのの協定に基づいて与えられる他のすべての権利と同様に第 6条の規定に従う。)  (b) 特許の対象が方法である場合には、特許権者の承諾を得ていない第三者による当該方法の使用を防止し及び当該方法により少なくとも直接的に得られた物の使用、販売の申出若しくは販売又はこれらの目的とする輸入を防止する権利 2 特許権者は、また、特許を譲渡し又は承諾により移転する権利及び実施許諾契約を締結する権を有する。


以上